はじめに
「日焼け予防に漢方?」と言えば、世間的にはまだ眉唾ものとされがちである。しかし、皮膚が赤く腫れ、ひりつくその現象は、我々漢方医の目には“熱毒”あるいは“血熱”として映る。紫外線は決して単なる外力ではなく、皮膚という最前線で生体に“熱”という炎症負荷を与えているのだ。その意味で、漢方による予防と治療は、極めて“理にかなっている”。
紫外線という見えざる刃
紫外線にはUVA、UVB、UVCの3種類があるが、地上に届くのは主にUVAとUVB。UVAは皮膚の奥、真皮に達してしわやたるみといった光老化をもたらし、UVBはその強いエネルギーで表皮に炎症(サンバーン)を引き起こす。長期的には色素沈着、皮膚がんリスクの上昇、白内障など眼への影響も見逃せない。
常識的な予防法は?
日傘、長袖、帽子、日焼け止め。もちろんこれらも必要だ。だが、現実問題としてSPF50のクリームを2〜3時間ごとに塗り直す生活など、誰が継続できるだろうか?食生活ではビタミンCやEなどの抗酸化食品が勧められるが、それも十分な量を毎日とはいかない。
日焼けを“病”と見る漢方的視点
漢方では、日焼けによる皮膚障害は“外感の熱邪”が皮膚に侵入した状態、あるいは“血熱”が皮膚に鬱積した状態と捉える。それにより起きる腫れ、赤み、乾燥、かゆみといった症状に応じて、体質に合った薬を用いる。
代表的な処方たち
- 白虎加人参湯:強いほてり、喉の渇き、脱力感を伴う時。清熱と津液補給の両立。
● 越婢加朮湯:熱感+浮腫体質、アトピー傾向に。熱と湿の双方を掃く。
● 五苓散:日射後のむくみ、頭痛、口渇。水分代謝と熱のコントロール。
● 清上防風湯:顔面の炎症、にきび体質。顔の“上焦の熱”に。
● 黄連解毒湯:強いイライラ、火照り、眠れぬほどの熱。血熱証に。
● 当帰飲子:乾燥・かゆみ・色素沈着を予防。慢性皮膚疾患体質にも。
● 十全大補湯:肌の回復力が落ちた虚弱体質に。
外用漢方という選択肢
- 紫雲膏:火傷やひび割れ、炎症に。日焼け後の赤みにも。
● 桂枝茯苓丸加ヨクイニン配合クリーム:色素沈着の慢性期に応用。
越婢加朮湯の立ち位置
個人的には、日焼けを“しやすい体質”に対して越婢加朮湯を予防的に投与するというのは、理論的に成立すると考えている。この処方は石膏+麻黄の清熱発汗、蒼朮の除湿という組み合わせで、“熱がこもって肌が荒れる”という体質を緩和しうる。ただし、日焼け止めの代替にはならない。あくまで“補助的な予防”という位置づけであるべきだ。
結語
日焼けは、“美容”の問題である以前に“病理”の問題である。そしてその“熱”を如何に扱うかが、我々の知恵の見せ所だろう。「日焼けに漢方」という発想が、“常識”になる日を、私は心待ちにしている。
とひとりごつ